アメリカ東部、ボストンの沖にマーサーズ・ヴィニャード島というアメリカ人憧れの別荘地があります。ケネディ家、ビル・クリントン、バラク・オバマ、ポールマッカートニーなど著名人が訪れるリゾート地。1960年度以降、開発が活発化し、自然環境を憂慮する声が強くなってきたため、島の開発を規制する権限を持つマーサーズ・ヴィニャード島(以下MV委員会)を1974年に設立。ホテルの乱立の規制や農地をショッピングセンターに転用することに認可を与えないなどの活動を行い調整してきました。21人の委員のうち、ヴィニャード島島民9名を選挙で選び、6名は6つの地域から一人ずつ、群の行政官とマサチューセッツ州知事官房から1名ずつ、残りの4名は別荘所有者を知事が任命します。
MV委員会では「特定開発危機的憂慮地帯(DCPC)」「地域全体を破壊する開発(DRI)」、「計画・立案」の三つの活動を行っています。DCPCは自然生態系や歴史・文化保存に破壊をもたらすと思われる計画を規制し、DRIは島の外観を損ねる開発など広範囲にわたる開発計画を検討します。また、計画・立案として、交通整備や自然保護、水資源の保護、経済発展と住宅供給などを計画し進めています。
1974年以来、ヴィニャード島の大きな開発計画はMV委員会が検討し、そのほとんどが自然環境に配慮した計画に改善されました。主なものには、①建物や道路を海岸から見えないように奥まった場所に建設。②島の貴重な飲料水を確保するために浄化槽の改良や設置場所を検討。③島の自恵まれた空間を維持し、交通渋滞の解消に配慮するような開発に留めた、などが挙げられます。
ケネディ家の別荘は、敷地の広さが新宿御苑の2倍半、大西洋に面して2キロ近くの浜辺、敷地内には氷河期からの手付かずの自然景観も残っています。別荘の建物は、母屋、ゲストハウス、使用人住居の3棟からなっています。
2019年の初めに、駐日大使も務めた、所有者のキャロライン・ケネディがこの別荘を65億円で売りに出しました。2020年6月に島の二つの自然環境保護団体が27億円で共同購入しました。この自然保護団体は、これまでも島の不動産売買取引額の2%を徴収して、それを資金源に島の土地を保全のために買い足してきました。当然のことながら、ケネディ家の広大な別荘地の自然も保全され、一般公開も予定されています。
2006年と2018年に調査研究で出かけましたが、12年間の間、島の景観が変わっていないことに改めて驚きました。軽井沢町が学ぶことが多いアメリカの高級別荘地です。
大河原眞美
(高崎経済大学名誉教授 軽井沢町まちづくり委員を務め、現在、軽井沢町自然保護審議会委員)